※本記事は2019年10月から月刊珠算情報誌「サンライズ」に連載された記事を再編集して掲載しています。
偉い人の「全部バツにすればいいんだよ!」から生まれた
とある全国大会でとある選手が20問くらい字バツ(字が汚いから☓)されているところを見かけました。どんな数字か確認してみたところどれも私の基準からすれば許容範囲内でした。たった1問の◯を増やすために努力し続ける選手にとってコレはあまりにも酷い仕打ち。
だからといってそれを悪用して汚い字を書き続けるというのも間違っています。計算の成果を証明するのは数字でしかないのだから、読めない数字は論外です。
数字の判定は永遠のテーマでもあり、どこからどこまでを許して良いのかが常に曖昧です。
多くの競技大会が「検定試験ルールに準じつつ好意的に採点する」としていますが、各会場委員の裁量に委ねられがちです。その検定試験でさえ、コロコロとルールが変わっているのが現状です。数字両端の一時訂正(「023」の0を消して「23」にする)が許された一方、数字2つ分の隙間が空いたらバツになる、など。細かい規定も全部書きたいところですが会員規定によりそういった内部ルールを言ってはいけないんだそうです。
いきなりルールが変わってこうしろ!と言われてもずっとそれで練習してきた先生・選手は対応できないですよね。何より、こういう理由があるからこうする、という「思想」を感じられません。その場の「ノリ」を感じるルール作りになってはいやしませんか。
全国大会や各大会の決勝ではどんな選手も緊張する一戦。ほぼ全員の手が震えています。そんな中、勝利をもぎ取るために全速力が求められるわけで普通の数字が書けるのは一部のベテラン選手のみとなります。
さて20問くらいバツにした先生についてですが、この先生は普段選手を育てていませんでした。大会に比べればゆっくりと正確に解く検定試験と、全速力で限界に挑む全国大会はバッティングセンターと甲子園決勝くらい性質が違います。そんな選手を育てないそろばんの先生に「いつもどおり採点してください」と指示するのは、バッティングセンターの店員に甲子園の審判をお願いするようなものでしょう。大会運営側の指示が悪かったということになります。・・・結局その選手の解答を救うことはできませんでした。
そこで、ルールを作っている先生にこの事態を上申してみました。すると「あんな汚い字を書く奴らがのさばってるのが悪いんだ!全部バツにすればいい!自分の生徒にはなるべく字バツしろと言っている!!」と言っていました。この言葉に憤ったことが、このルールの制定、ひいてはFaST開催の原動力にまでなったのです。
FaST数字判定ルール
そんなこんなで反面教師から生まれた新ルール。詳細は第1回FaSTの要項そのままを載せてしまいましょう。【】内は後付の解説です。
① 基本的なルールは、各検定試験の一般的なルールに準拠した上で、なるべく好意的に採点します
② 「二重書き」「次の数字に繋がっている数字※1」「次の一画が繋がっている数字※2」「他の数字にも見えるもの」は全て誤答となります
【繋がっている数字というのは手・筆記具の上下の動きの手間を省く行為であり、訂正の手間を省いた二重書きと同じくらいアウトな行為だと以前から考えていたため、このルールを採用しました。全日本決勝の採点をしたことがありますが、優勝経験のある選手は繋がっていませんが、他の選手の大半は繋がっている印象でした。】
③ 見取算における、どの問題の答えを書いたか明確にわかる場合での、番号表記のない欄外への答えの記入を認めます
【これは全珠連で認められており、日珠連で認められていないルールです。会計の現場で記帳する際に欄外記入は論外ですが、現在は会計の現場でそろばんは使われていません。記帳のためのそろばんではなく、そろばんのためのそろばんになっているため全珠連に準拠し、正答としました。】
④ 各数字に距離がある場合でも横一列で記入してあれば一つの答えとして認めます。例:「3, 2 5 4」
【これは前章でも述べている全珠連で新たに導入され物議を醸しているルールです。見取算の分割計算やかけわりの答えができたところから書いていける、答えを見ないで書けるのが上級者であると私は考えています。もちろん最終的にはきちんとした答えが書けるのがベストですが、上達過程にある子にとっては成長を阻害するルールであると私は考えているので、このルールは無視・正答としました。】
⑤ 「1」に関しては縦棒一本であること。「上に鈎があるもの」や「下に横棒があるもの」は誤答となります。※3
⑥ 「4」に関しては上が繋がっていないものであること。「4」は誤答となります。
⑦ 「7」に関しては、2画で記入すること。欧米式の「ヌ 」や「一角目の縦棒がないもの」は誤答となります。※4
通信FaSTが始まった2020年4月より海外からの参加希望者がいたため、通信FaSTに限って「ヌ」は正答となりました。
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