※本記事は2019年10月から月刊珠算情報誌「サンライズ」に連載された記事を再編集して掲載しています。
A.見取の口数の復活
本大会では見取算の口数をとても長く設定しました。最初は横に広がることを考えていたのですが、作問をしている段階で竹澤祥加選手(先生)から、学生時代に全日本前合宿で共にお世話になった黒川速算塾・臼井実先生の言葉、「かけわりは横長く・見取は縦長く(を練習すると上手になる)」を思い出せと言われたのが最初のきっかけです。
また、私は検定試験の問題改正で選手たちの見取算の実力が著しく落ちたと感じています。これは私という中途半端な実力であっても、日本一常連の若手選手達と見取算・見取暗算・伝票算に限れば(負けるけど)大きな差が出ないことや、全日本ユース・全大阪オープンの上記種目の決勝進出者の年齢層が高いことからも伺えます。かけわり:見取の上手さの比率が昔の選手の実力基準に見れば歪んだとも言えるでしょう。
全珠連の例で言えば、現在の全日本・見取暗算は答えを書いている間に次の問題を計算し終わるくらいの速度・動作がないと終わりません。計算自体は難しくない単調なものが繰り返されるので実質的には「動作算」といってもいいでしょう。しかし、答えを書き続ける・答えを書いている間に計算し終わる力は、口数が長くないと身に付きません。
この問題を終わらせたいのにこの問題を練習してもその力は効率的に身につかない、という罠みたいな問題が現状の多くの検定試験・大会の問題だと思います。
一方で見取算が簡単な分、見取に割く時間が減った=かけわりに割ける時間が増えたことも意味しており、近年の選手のかけわり桁幅上昇=選手の実力向上にも大きな影響を与えたとも考えられるため、一概に悪いとは言えません。ただ、見取算の計算できる口数や桁幅が増えればかけわり同様に計算速度や正答率は上昇します。簡単な問題のためにも難しい(長い)見取算は行うべきだと考えたため、かつてのような(かつて以上の)見取算を復活させました。
B.終わらない問題での大会
昭和31年刊行の暁出版「珠算辞典」には「選手権競技は主として記録の更新を図るために行われる方法である。従って種目別に行われるのが適当かと思われる。出題の方法としては、「制限時間内に計算不可能な題数を与えて行わしめるのは当然である。」とあり、その最たる例として全日本珠算選手権大会を挙げています。全日本は検定試験問題の改正後に大会の問題も簡単にしました。一方、選手たちの実力は上がり続けているため、満点を取らなければ決勝に進めない「満点競技」となって久しいです。歴史のある大会には当初の理念との差異というものはどうしても生まれてしまうのかもしれません。
本大会では現在最強の土屋宏明選手や竹澤祥加選手の実力から勘案して、全日本当初の理念である「終わらない問題」を設定したつもりです。満点競技のために大会の問題よりも難しくて、大会とは関係のない問題を練習している実力者には是非FaSTで練習・挑戦して、(難しさに苦しみつつも)楽しんでもらいたいと思っています。
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